E note
【E CROSS TALK REPORTS vol.12】ゼロからはじめる地方マーケティング
〜自分の強みを活かし、地域に根ざして働こう〜
こんにちは!
今回は10月24日のワークショップ「【E CROSS TALK vol.12】ゼロからはじめる地方マーケティング〜自分の強みを活かし、地域に根ざして働こう〜」の内容を抜粋してお届けします。
地方で仕事をしていると「いいものを作っているのにものが売れない」「有名なマーケティングやコンサルティングの手法が通用しない」という場面に遭遇しませんか?
実は地方と都市には、考え方の違いや物の売り方の違いがあるのだとか!
そこで重要なのが「バリュープロポジション」という考え方です。
今回は静岡をはじめ全国で活躍する桜井 貴斗さんを講師に招き、「ゼロからはじめる地方マーケティング」をテーマにワークショップを開催しました。
講師プロフィール
桜井 貴斗(Takato Sakurai)
HONE Inc.
代表取締役/マーケター
X(旧Twitter):@LOCAMA_AT
札幌生まれ、静岡育ち。
大学卒業後、大手求人メディア会社で営業をしたのち、同社で新規事業の立ち上げ等に携わる。
「売り手都合の営業スタイル」に疑問を感じていた矢先に、グロービス経営大学院にてマーケティングに出会い衝撃を受ける。その後、新たな新規事業の立ち上げを経て、2021年に独立。現在はクライアントのマーケティングやブランディングの支援、マーケターのためのコミュニティ運営などを手掛けている。
・一般財団法人 ブランド・マネージャー認定協会(ブランド・マネージャー)
・新R25公式コメンテーター
・NewSchool (NewsPicks×刀 マーケティングブートキャンプ1期生)
・静岡デザイン専門学校 講師
・藤枝商工会議所 専門家
・島田商工会 専門家
・森町商工会 専門家
マーケティングとは
冒頭では桜井さんの自己紹介や、桜井さんがブランディングやプロデュースなどに携わった「ブロッコる?」や「TripTrain」、「熟成日本酒」、「石畳茶屋 縁-en-」などの事例をご紹介いただきました。
実は桜井さんのお母様のご実家が札幌だったため、馴染み深い街なのだとか!
桜井氏
そもそも「マーケティングとは何か?」という話は、さまざまな方が議論をしてきている問題です。
たとえば…
- 「マーケティングとは顧客の創造である」 セオドア・レビット
- 「マーケティングの究極の目標は、セリング(売り込み)を不要にすることだ」ピーター・ドラッカー
- 「マーケティングとは、個人や集団が、製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズやウォンツを満たす社会的・管理的プロセスである」フィリップ・コトラー
これらの方々は、言葉は違いますが「価値を作る」「顧客を作る」や「営業をなくそう」などと言っています。いわゆる仕組み化することを提唱しているんです。
このほか、マーケティングをGoogleで画像検索してみるとフレームワークやチャート、フロー図などがたくさん出てきます。それにともなって「プロモーション」や「ブランディング」などの言葉も出てきますが、一言で言っても、広義で横文字でわかりにくいですよね……
たとえば「プロモーション」といっても、「広告」や「販売促進」を考える人もいれば、「インセンティブ」とか「ギフティング」と言われるような物を配ることを言う人もいます。一概に1つの言葉が1つだけの意味で使われることは、あまりないかもしれません。
私なりに文献や論文、実践されてるマーケターの方にいろいろ聞いた中で、一番シンプルなのは「目的を設定し、だれに・なにを・どうやって届けるのかを設計・実行すること」というふうに考えています。
「だれに」というのは、顧客、クライアント、取引先、利害関係者などのこと。
「なにを」というのは、簡単に言えば「価値」や「便益」のこと。安いことや豊かになることなども価値と言えますよね。
最後の「どうやって」は、広告を打ったりやSNSでの告知、店頭に出る・イベントに出るなども含まれます。
重要なのが「だれに」「なにを」「どうやって」という順番。「どうやって」の部分は最後に決めるのが大事です!
流行っているからといって、いきなり「TikTokをやりましょう!」と打ち出しても、「だれに」というターゲットの部分がシニア層であれば相応しくないですよね。
この考え方は「だれかに何かを売るとき」や「だれかの商売のお手伝いをしているとき」はもちろん「自分自身を売り込むとき」も同じように使えます。
だれに買ってもらいたいのか。そして商品を通してどんな価値(安さ?安心感?豊かさ?)を提供するのか。そしてそれをどのように売り込むのかを順番に考えましょう。
トレーニング:スターバックスとセブンイレブンのコーヒー
ここで一つトレーニングをしてみましょう。
スターバックスではコーヒーを390円で販売している一方、セブンイレブンではコーヒーを110円で販売しています。価格差は4倍弱ぐらいありますが、中身は同じホットコーヒーだとしたとき…
- スターバックスのコーヒーを買っている人とセブンイレブンのコーヒーを買っている人は同じ人?違う人?
- スターバックスのコーヒーを買っている人は、スターバックスのコーヒーを通じて「何を」買っているのか?スターバックスはどうやって売っているか?
- セブンイレブンのコーヒーを買っている人は、セブンイレブンのコーヒーを通じて「何を」買っているのか?どうやって売っているか?
これらを考えてみましょう!
このトレーニングに対して、参加者のみなさんからは
「スターバックスは時間に余裕がある人が買っているのだと思う」
「セブンイレブンは駅前などにあるから急いでいる人が買っている」
「スターバックスのコーヒーには優越感がある」
「セブンイレブンのコーヒーは手頃で手軽」などの意見が出ました。
桜井氏
みなさんが考えたとおり、スターバックスはコーヒーを提供するだけではなく、くつろげることが価値となっています。静かな店内で高価格帯コーヒーを飲みながら、ゆったりとした時間を楽しむ場所を提供しているんです。
静かな店内を保つためにスターバックスでは火を使うメニューは提供していません。洗い物も少なくなるようにし、調理や洗い物の音が出ないように工夫をしているんです。
一方セブンイレブンは手軽に買えることが大きな価値となっています。ロードサイドや駅前で低価格コーヒーを提供し、朝やランチ帰りの時間がない時にでも、さっとコーヒーが買ってもらえるようにしています。
つまり「だれに」「なにを」「どうやって」を考えることで、同じコーヒーを売るお店でも狙いが変わるんです。
消費者が「スターバックスでしか手に入らないもの」に価値を感じてくれれば、高くても買ってもらえます。これがマーケティングの原理の部分だと考えています。
なぜ地方にこそマーケティングが必要なのか?
桜井氏
それでは、なぜ地方にマーケティングが必要なのでしょうか。まずは地方の現状について簡単に紹介します。
ここでいう「地方」は、東京・大阪・愛知の三大都市以外を指します。地方の会社の特徴として
- 赤字の会社が多い
- 会社に適切な後継者がいない「跡継ぎ問題」を抱えている
これらが問題としてある一方で、GDPを都道府県別に出しているデータによると、売り上げの7割弱は地方が占めています。
つまり日本のGDPは、地方が支えているとも言えるわけです。東京一極集中とも言われていますが、実は生産性や雇用は地方が生み出しているとも考えられます。
とある地方に行ったときの農家さんの言葉で、今も心に残っていることがあります。それは「東京の食卓に並んでいるもののほとんどは、地方の農家さんが汗水を垂らして育てたもの」。まったくもってその通りなんですよね。
実は東京の一次生産者は、日本全体の1%程度。東京では加工をするか仕入れてくるかが仕事となっています。つまり、地方が作ったものが東京を潤わせている、とも言えますよね。
ただし、物を売るときの考え方が、都市と地方では大きく違っています。
都市では市場分析や戦略を立ててから、商品やサービスを作って売る仕組みができています。しかし地方では、コンセプトやコミュニケーション手段(Webサイト、SNS)などを先に考え、「だれのためにつくるのか」「どういう市場があるのか」を考えずにものだけ作ってしまうケースが多いんです。
なぜこんなことが起きてしまうかというと、ものを作れてしまうからなんです。
ものをすぐに作って商品にできてしまうので、ものができてから「どう売るのか?」を考えてしまいがち。誰に売っていいかわからないプロダクトが既にできてしまっていることが、地方のネックになるケースもあります。
このような場合「まず市場を考えてから商品を作りましょう」という提案をします。
地方・都市関係なく重要な考え方として「経営戦略」「事業戦略」「販売戦略」というものがあります。
- 「経営戦略」:会社として何を大切にしているか/自分たちはどんな商品を作りたいのかなどの上流部分
- 「事業戦略」:どうやったら儲かるのか
- 「販売戦略」:どう売るか
この考え方を都市の場合、経営→事業→販売の順で考えています。また都市では経営戦略は経営者が、事業戦略や販売戦略はそれぞれ別部署や会社が担当することが多いです。
一方で地方は、販売→事業→経営という逆の順序で考えているケースが多く見受けられます。またすべてを自分たちで行わなければならないことが多いのも特徴。要は考えなくてはいけない領域が広いんです。
経営理念や事業戦略を置き去りにして、販売戦略ばかりを行う地方会社さんが多いのが現状としてあります。地方マーケティングにおいては「経営戦略」「事業戦略」を一緒に考えなくてはいけないのが難しいポイントですね。
赤字や後継者不足など難しい問題を抱えてはいますが、ものを作れるのは地方の大きな魅力です。
バリュープロポジションとは
桜井氏
ではここから本題の「バリュープロポジション」についてのお話をしていきます。
バリュープロポジションとは、わかりやすくいうと「自分だけが持っている強み」のことです。
提供できる価値には、大きく分けて3つの種類があります。
- 顧客が望んでいる価値
- 自分が提供できる価値
- 競合が提供できる価値
この3つの価値のうち、自分が得意かつ競合が提供できない、相手が求める価値が「バリュープロポジション」です。
この考え方は、企業やものづくり・サービスづくりだけではなく、転職をするときにも役立ちます。転職のときに、自分の強みを活かした仕事につきたいと思うはずですよね。
そこで、先ほどの図の「顧客」を「世の中や就職先が求める人物像」、「競合」を「ほかの求職者」に置き換えてみましょう。自分がアピールすべき強みが見えてくるはずです。
また、先ほど例に挙げたスターバックスの場合は、このように考えられます。
- 顧客が望む価値:ホッとするひととき、気取らない自分、自分の居場所
- 自分が提供できる価値:フレンドリーな接客、くつろげるインテリア、リラックスする空間
- 競合が提供できる価値:美味しいコーヒー、駅前の好立地、お得なランチメニュー
これらの価値から、スターバックスだけのバリュープロポジションは「ホッとできる空間の提供」と導き出せるんです。
ちなみに私の会社の場合は、このように考えました。
- 顧客が望む価値:全体最適、利益の最大化(売上ではない)、自分たちらしさの発見
- 自分が提供できる価値:経営に実装するマーケティング、変革に向けたリーダーシップ、自立自走できる伴走支援
- 競合が提供できる価値:Webコンサルティング、広告クリエイティブ、プロモーション・企画
これらから私の会社は「全体最適・利益最大化を目的とした経営に実装するマーケティング戦略の提供」が強みであるということを、今も打ち出しています。
ブロッコリーのリブランディング事例
桜井氏
ここからは、一つ実際にバリュープロポジションをもとにプロモーションを行った事例を紹介します。
クライアントは、静岡のJAハイナンさん。「ブロッコる?」という商品を開発しました。この商品は袋に蒸気口があり、袋のままレンチンしてそのまま食べられるのが大きな特徴です。パッケージも静岡のイラストレーターさんを起用しています。
当初クライアントから出てきた課題は、「ブロッコリー農家さんは増えているが、売る場所がない」というものでした。
最終的に考えたバリュープロポジションは、このようなものになりました。
- 顧客が望む価値:豊富な栄養素、食べやすさ、調理しやすさ
- 自分が提供できる価値:包丁を使わないカット済み、袋でレンチン3分でOK、見た目・キャッチーさ
- 競合が提供できる価値:豊富な栄養素、生産者さんの顔、大きさ・ボリューム(量)
バリュープロポジション:袋のままでレンジで3分、洗わず食卓に出せる
栄養・利便性に加え、思わず手に取りたくなるオリジナルパッケージ
実は市場調査をしたときに「ブロッコリーのパッケージはキャッチーなデザインがない」という気づきがありました。どれも同じようなパッケージなんですよね。この点から、目立たせて利便性をあげたら売れるというのがわかりました。
販路については、大体の方がスーパーで購入をしているので、メインストリームを狙うためにもスーパーに決めました。またターゲットについては、当初「筋トレ層を狙おう」という話もあったのですが、これはやめることに。筋トレを意識してブロッコリーを購入する人は、ブロッコリーを味で買っているわけではありません。
調べていくと、そもそもブロッコリーを味で判断して買っている人は少ないことがわかりました。だからこそ、機能的な価値をつけた上でパッケージの差別化を図る戦略に決めたんです。ここでいう機能的は「カットされてるから包丁を使わない」「レンチンで調理ができる」とか、そういうことですね。
このような考えに至るまで、市場→商圏→ターゲット→提供便益→提供方法の順で選定していくのがセオリーです。
最初に選定するのが「市場」。筋トレ層に響かせるためには「健康食市場」「健康食品・サプリメント市場」「フィットネス市場」などが考えられますが、いずれも市場規模は大きくありません。それよりも規模が大きく、取り分も多い「食品市場」を狙うことにしました。
商圏は生鮮食品であることから、静岡に設定。スーパーに置くことを考えると、日常的に買ってくれる主婦・主夫層がターゲットになりました。この層に響くように販売するためには、栄養面や買いやすさ、食べやすさの訴求が大事だと考えられます。
ここに至るまで調査の内容から
- 最初ターゲットにしようとしていた筋トレ層は、冷凍で安い商品を食べていた
- 検索してみると「冷凍」「スルフォラファン」「離乳食」などがサジェストに→スーパーで買うような層は検索して買っていない
- 都内だとおしゃれなサラダボウルのお店があるが、静岡だと合わないかも
- 茹でるよりもレンチンの方が、栄養が逃げない
- Oisixでは420円で販売されている(平均世帯所得よりもかなり高い層が使用している)
などの情報を共通言語として共有し、議論していきました。この共通言語で話し合うことが大事なんです。
結果的にパッケージもスーパーで目立ってくれて、多くの方に購入いただいています。バイヤーさんからも「面白いね」と声がかかるようになりました。
ワークショップ:自分のバリュープロポジションを考えてみよう
バリュープロポジションの基礎と実例を学んだところで、ここからはワークタイム。「自分のバリュープロポジションを書き出してみる」という課題に取り組むことに。自身の事業や手伝っている商品などで考えている参加者もいました。
ワーク後の発表タイムではペアやトリオになって、お互いのバリュープロポジションを発表し合いました。
桜井氏
それでは最後に、今後地方はどうなっていくかを考えてみます。
日本は30万人都市が多いという現状があります。30万人がどれくらいの規模かというと、大体百貨店が作れるか作れないかくらい。30万人を切ると、百貨店が撤退してしまい、生活インフラが衰退するという問題が起きてきます。
生活インフラが衰退すると、人がどんどんいなくなり、従業員の雇用問題や後継者問題が出てきてしまいます。それにともない企業の売り上げや経営資源も減ってしまうことが懸念されます。
つまりこれからの地方は
- 人がいない
- 原料や資源の高騰
- 売り上げが減少
- 借入などを利用しなければいけない
などの厳しい状況に陥ってしまいます。
そこでこれからは越境EC、海外マーケティングに繋げる戦略が必要です。海外を見ない選択肢は、地方にはほぼないかなとまで思っています。
マーケティングを行なっていく場合、特に地方のマーケターはさまざまなスキルが必要だと思っています。できない部分があっては難しいし、ある程度網羅的に知っておかなければいけません。
必要なスキルは
- 戦略的思考
- データ分析力
- デジタルマーケティング知識
- クリエイティブ思考
- プロジェクトマネジメント力
- コミュニケーション能力
- ベーシックスキル
- 倫理的判断力
特に地方では「利他性」「誠実性」「モラルがあるかどうか」などの倫理的判断力や、「ロジカルシンキング」「ライティング力」「情報のインプット力」などが問われるベーシックスキル、「ディレクション」「チームビルディング」が求められるプロジェクトマネジメント力などは必須です。
そして何よりも重要なのはコミュニケーション!傾聴力や共感力は絶対に必要です。リモートワークであったとしても、顔が見えないからこそこまめなコミュニケーションやテキストでの配慮などを意識しなくてはいけません。
最後にまとめます。
- 地方は伸び代だらけ!→課題が多い分、伸び代も必ずあります。
- ロジックやスキルだけで動かないことも→傾聴力・共感力が必要です。
- ここだけは絶対に負けないという自分の専門領域、つまりバリュープロポジションを作りましょう!
- 合言葉は「気力・体力・底力」!→地方には「やるしかない!」という場面がたくさんある
- 「やっちゃいけないこと」なんてない→直属が社長のことも、指示がないこともあるのでチャレンジがしやすい環境(上から言われたからやっちゃいけないということが少ない)
今日は短期的なプロセスですが「バリュープロポジション」についてお伝えしました。これを軸に、ぜひ自分の専門性を高めていただいて、自分なりの得意分野を作って活躍をいただければというふうに思っております。
今日はありがとうございました!
□まとめ
都市と地方ではそもそもスタートの考え方が違い、効果的に良い利益を上げるために「バリュープロポジション」や「だれに→なにを→どうやって」売るのかの順序で考える必要があるのがわかりました。
また一見聞き慣れない「バリュープロポジション」も、自分の強みでワークショップを行うことで分析がしやすくなったのではないでしょうか。
今、そしてこれから地方で働く上で欠かせない考え方を、実践的に学べたワークショップでした!
E CROSS PARKでは、今後もさまざまなテーマのワークショップを開催予定です。
ぜひみなさまのご参加をお待ちしております!
次回のレポートもお楽しみに!