E note

WORKSHOP

【E CROSS TALK REPORTS vol.04】
デザインはセンスじゃない デザインを理解しビジネスに繋げる考え方を身につける

こんにちは。
今回はモンスター・ラボの村田健介さんと神子愛香さんをお招きし、デザインとは何か、ビジネスとしてのデザインについてお話しいただきました。
身の回りに溢れているデザインはどんな意図で作られているのか、デザイン力を向上する筋トレ方法などなど、未来のデザイナーの皆さん必見の内容となっています。
デザインを制作する側としても、指導する側としてもプロフェッショナルな視点を持つお二人の講義をぜひ最後までご覧ください!

講師プロフィール

神子 愛香

神子 愛香(Aika Kamiko)

Team Lead Designer

Monstarlab, Inc.

東京工芸大学メディアアート表現学科インタラクティブ専攻卒業。大学卒業後、東京のデザイン制作会社にて、グラフィックデザイナーとして4年勤務。ブランディングの観点を踏まえた戦略立案を軸に、 CI ・広告・カタログ・パッケージ・ウェブサイトのデザインの他、映像・プロダクト・建築まで、多様なチャネルを横断しながらデザイナーとしての経験を積む。モンスターラボ入社後はフィリピン拠点にて日本人とフィリピン人デザイナーのマネジメントを行いながら、教育事業のモンスター・アカデミアでは企業ごとの課題に応じたデザイン領域の育成支援や組織組成における伴走支援等を行う。

村田 健介

村田 健介(Kensuke Murata)

Design Teacher

Monstarlab, Inc.

和歌山大学経済学部出身。グラフィックデザイナーの経歴を経て、2019年よりモンスター・アカデミアのデザイン講師業に従事。フリーランスでグラフィックWeb・UIUX領域のデザインを横断。民間向けのデザイン教育だけでなく、人材派遣・保険・IT・自治体など、様々な組織での研修をこなし、のベ400人ほどにデザイン思考およびUIUXの研修を行う。


□デザインとは?

 

「デザインとは?」という問いの答えは、意匠である、問題・課題解決である、問いを出すことである…などなどここ数年で定義がかなり広がってきており、世間一般での「デザイン」という認識が混乱してしまっていると感じています。

そこで今日この講義の間は「相手に伝わるためのコミュニケーションの手段」をデザインの定義とし、伝えるためのデザイン力を向上させる方法をご紹介していきます。

コミュニケーションは人が介在すると必ず発生するもの。つまりデザインの考える領域はかなり広くて深いということなんです。よくある勘違いとして「意匠」いわば見た目の部分がなんとなくかっこいい、美しい、かわいい、ということだけをデザインとすることが挙げられます。もちろんひと目見たときの視覚的な効果も大切ですが、接客や会話などのような相手に「伝える」コミュニケーションも、デザインの大事な要素だと言うことを覚えておいて下さい。

例えばオレンジジュースを販売するとなった時、皆さんならどうやって売上を出しますか?

もしも「おいしいから飲んでほしい!」と伝えて全員が快く飲んでくれるのならデザインはいらないんですよね。でも実際には競合他社もたくさんいるし、消費者も簡単には財布を開いてくれない。そんな時にコミュニケーションを最適化して相手にメリットを伝えるのがデザインの役割です。

では実際に世の中にはどんなデザインがあるのか見てみましょう。

シーズンごとに新しい商品を販売しているスターバックスコーヒーでオレンジ味のドリンクを新発売したときの広告を見てみると、美味しそうな果肉の写真やシズル感が演出された商品が配置され、涼しく果実味をたっぷり感じられるのが伝わってくるデザインになっています。さらに筆字風のフォントを使用し、ガツンと濃い果実感のドリンクを表現している他、数々の細やかな工夫がなされていました。

スターバックスコーヒーは今や誰もが知るような大企業。若者はプロモーションドリンクを待ちわびているし、売上を出したいだけならわざわざこんなに細かくデザインしなくてもいいはず。ではなぜこだわって広告を作るのでしょうか?

こうした商品の良さが相手に伝わるためには、相手の本質的なニーズや課題を理解する必要があります。一方的に販売側がかっこいい、美しいと思う表現をしているだけでは消費者の心を動かすのは難しい。反対に消費者のニーズを研究し、そのニーズに寄り添ったデザインをすることで消費者の心は圧倒的に動かされやすくなるのです。

デザインとは相手を理解する思考プロセス。そしてプロダクトや商品の本質的な価値を伝えるための手段でもある。だからこそこだわり抜いてデザインする意味があるのです。

僕たちはデザインを構成する要素として大きく3つに分けられると考えています。まずはクライアントの抱える問題やユーザーをリサーチすることで本質的に商品やサービス、またそれらを取り巻く環境と課題を理解する「課題提起力」、その商品の魅力をいかに消費者に伝わるように形にするかが問われる「表現力」、その上で戦略や課題解決を通してメリットを伝える「提案力」

デザインといえば「表現力」にフォーカスが当てられがちですが、その前の段階の調査・分析、UXリサーチを入念に行い、ユーザー理解の解像度をあげることによりデザイナー独りよがりの表現ではなく、根拠のある効果的なデザインとなるのです。つまり「デザイン」というのはただ手を動かし単純な表現をアウトプットして終わりではなく、対象をリサーチ・分析しながら論理的に効果を期待する、とても戦略的でビジネスにおいて必要不可欠な「考え方」ということなのです。デザイナーだけの領域ではなく、ビジネスパーソン全員が取り組むことが出来る課題であると僕は考えています。

 


□デザインという「考え方」を学ぶ―デザイン力を高めるために

 

考察する:表面的な表現の考察

街中で自分が素敵だと思う商品宣伝ポスターを見かけた時、その商品を買う、もしくは販売店に行って実物を見てみる等、何かしらの行動を取る人がほとんどだと思いますが、まずは立ち止まり、なぜそのポスターが魅力的だと思ったのか考えてみてください。ここで重要なのがなぜそう思ったのかを「言語化」すること。

例えば自分がかっこいいと思うポスターを考察し言語化した結果、特徴的な赤色で彩られた文字を魅力的だと感じていたとする。その後全く別のポスターを素敵だと思い考察・言語化した結果、こちらも同じように特徴的な赤色の文字を魅力的に感じていた。こうした経験がどんどん積み重なることで、「この特徴的な赤色は差し色として使用すると魅力的に見える」という知識になっていくんです。

この「考察する」という訓練は筋トレと同じようにやればやるほど多くの知識に変わっていきます。なので素敵なデザインに出会った時、それを分解してなぜ魅力的に思ったのかを言語化する癖をつけることが大切です。

では実際にポスターを見ながら考察してみましょう。


ALL-FREEのポスターから考察できることは?

・なんだか爽やか
背景がブルーだから/カラッと晴れた空みたいだから

・軽いイメージ
人物が飛んでいるから/フォントが細くて字間がしっかりと取られているから

・句読点の繰り返しが気になる
人物が飛んでいるから/フォントが細くて字間がしっかりと取られているから

考察を重ねていくと、爽やかで軽いイメージは「ALL FREE」というノンアルコールのヘルシーなイメージを軽さで表現していたのではないか?とも考えられます。


ポタージュのポスターから考察できることは?

・美味しそうに感じる
背景色が野菜を彷彿とさせる落ち着いた色味だから
ビビットカラーでギラギラしていたら美味しそうに感じていただろうか?

・ちゃんと食事っぽく感じる
濃く、明度の低いカラーを使用し、密度が感じられる。フォントも太くどっしりしているから

さらにこれらの考察から読み解けることとして、

この商品を購入する人はしっかり栄養を取りたいと思っている

ポスターにはサンドイッチやおにぎり等コンビニで手軽に手に入るものが配置されているのでコンビニで手に取ることを想定している

コンビニで食事を購入しているのは忙しいから
そんな忙しい人をターゲットに、食事や栄養補給を手軽に行ってもらうのが目的

一考察ではありますが、こうしてターゲットや目的が明確になってきます。逆に考えれば制作するデザイナーはこれらを想定しながら、ユーザーに効果的な表現方法などのアプローチを考えているということなんです。街中でポスターを目にした時は、ぜひどんな意図で誰に向けて制作されたのか考察してみてください。きっと新たな発見が得られると思います。

 

考察する:体験を考察する

前述のスターバックスコーヒー、皆さんは行ったことがありますか?人気のコーヒー店なので頻繁に利用する人も多いのではないかと思います。

スターバックスコーヒーをよく利用する人は

・店舗の空間が好き

・落ち着いた照明が心地よい

・飲み物の種類が豊富

・店員の接客が気持ち良い

・たくさんカスタマイズすることが出来る

・なんかかっこいい

こういった理由で通っていることが多いようです。

内装や接客などコーヒーとは直接的に関係ないところを支持する声も多く、これらが意味することとして必ずしも利用者全員がコーヒーを目的としている訳では無いということ。例えば仕事の作業をする場所として利用したり、友達とゆっくり話す場所として利用する人もいるでしょう。作業のために利用する人はコーヒーではなくWi-Fiがなければ意味ないかもしれないし、ゆっくり過ごす場所として利用する人はおいしいコーヒーに加えて落ち着ける素敵な空間を求めているかもしれません。

こうして日本のスターバックスコーヒーは飲み物だけでなく、心地よい空間やカスタマイズの文化、気持ちの良い接客を通して、サードプレイス(家、オフィスに次ぐもう一つの居場所)」としてのブランディングを緻密に行い人気を確立しています。

 

考察する:自分の「好き」を考察

皆さんが身につけているもの、持っているもの、家に置いている家具等はきっと好きなもので溢れていると思います。例えその購入理由が安かったからだとしても、その基準の中では自分の好みのものを買っているのではないでしょうか。でもそれが他の人の「好き」と同じとは限りません。なぜならそれがあなたの個性だから!普段なんとなく使っているものでもあなたの個性の詰まったものかもしれないし、他の人から見たらとってもセンスのいい買い物だと思われてるかもしれない。だからこそ自分の好きなものを考察し、他の人と共有することで自分の大切にするべき個性を再確認できるのです。

 


□デザインという考え方

 

デザインとはデザイナー以外にも必要な汎用的な考え方であり、元々生まれ持ったセンスや感覚的なものではなく知識の積み重ねによって論理的に身につける事ができる思考プロセスです。そしてそれは企業の持つビジョンとユーザーの求める価値を繋ぐ役割を果たし、ビジネスゴールとユーザーニーズのどちらも叶える理想のサービスを提供するための思考プロセス(考え方)そのものがデザインと言えるのです。

 


いかがだったでしょうか?

デザインというと色味やフォントなどの表面的な部分に目が行きがちですが、実際には商品やユーザーを分析し論理的に効果のある表現をしていくというビジネス的な側面が大きい考え方であることがわかりました。今回お話いただいたことはあくまで「筋トレ」。デザイン力を向上させるためにもぜひこれらを継続して、デザイン脳を養っていってください。

次回もお楽しみに!