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WORKSHOP

【E CROSS TALK REPORTS vol.17】誰でもできるデザインの提案方法
〜ビジネスで役立つ顧客の心をつかむデザインとは?

こんにちは!
今回は12月1日のワークショップ「【E CROSS TALK vol.17】誰でもできるデザインの提案方法〜ビジネスで役立つ顧客の心をつかむデザインとは?」の内容を抜粋してお届けします。

2023年4月に【E CROSS TALK vol.04】で登壇いただいたMonstarlab様。再度ご登壇いただき「ビジネスで役立つ顧客の心をつかむデザインとは」というテーマで、「誰でもできるデザインの提案方法」をワークショップも交えながら解説していただきました。

多くの参加者が集まった人気のワークショップのレポートを、内容を抜粋してお伝えします!

講師プロフィール

神子 愛香

神子 愛香(Aika Kamiko)

Team Lead Designer

Monstarlab, Inc.

東京工芸大学メディアアート表現学科インタラクティブ専攻卒業。大学卒業後、東京のデザイン制作会社にて、グラフィックデザイナーとして4年勤務。ブランディングの観点を踏まえた戦略立案を軸に、 CI ・広告・カタログ・パッケージ・ウェブサイトのデザインの他、映像・プロダクト・建築まで、多様なチャネルを横断しながらデザイナーとしての経験を積む。モンスターラボ入社後はフィリピン拠点にて日本人とフィリピン人デザイナーのマネジメントを行いながら、教育事業のモンスター・アカデミアでは企業ごとの課題に応じたデザイン領域の育成支援や組織組成における伴走支援等を行う。

村田 健介

村田 健介(Kensuke Murata)

Design Teacher

Monstarlab, Inc.

和歌山大学経済学部出身。グラフィックデザイナーの経歴を経て、2019年よりモンスター・アカデミアのデザイン講師業に従事。フリーランスでグラフィックWeb・UIUX領域のデザインを横断。民間向けのデザイン教育だけでなく、人材派遣・保険・IT・自治体など、様々な組織での研修をこなし、のベ400人ほどにデザイン思考およびUIUXの研修を行う。


デザインとは何か

Monstarlabの村田 健介さん、神子 愛香さんにまずは自己紹介をしていただき、ワークショップを行いました。

村田氏

デザインで重要なのは「コンセプト」や「なぜこのデザインが重要なのか」を考えることです。

ところがデザインの話になると、技術論になりがち。どういう技術で提案するのかという話ではなく、そもそも「そのデザインでいいですか?」みたいな話をしないと、提供価値がズレてしまいます。

そこで必要になってくるのが「提案力」!

今日はそんな話を中心にしていきます。

 

神子さんは、ワークショップのサポートなどを行なってくれました!

 

村田氏

まずはデザインについて、基本的なところを捉えておきましょう。

デザインとは「ユーザーや顧客が本当に求める価値を探求すること」。そしてそれをビジネスに活用する考え方のことを言います。

「ユーザーが求めてる価値を追求するって、当たり前のことでは?」「顧客目線でサービスを考えるのは何も目新しいことじゃなくないですか」とよく言われるんですが、今日はこのあたりをより深掘りしていきます。

 

今日のゴールとして「ビジネス分野におけるデザイン重要性って何なのかを理解してほしい」「ユーザーや客が本当に求めるデザインプロセスを知ってほしい」と言うことが挙げられます。

ビジネスの圧倒的な成果に繋がる【デザインプロセス】を理解してもらえれば嬉しいです。

 

 

そもそもデザインとは?

村田氏

そもそも、みなさんにとってデザインの定義はありますか?

よくある答えとして「表層について(かっこいい・かわいい・装飾類)」や「使いやすさ」なんかがあるのではないでしょうか。それに伴って、デザイナーは表現するのが好きだから「表現力があればできる」と思われがちです。

でも実は、最近デザインの抽象度が上がっています。

 

例えば

  • 課題解決
  • 情報設計
  • ライフスタイルデザイン
  • キャリアデザイン

これらも最近では「デザイン」の一部として認識されていますよね。

「Design」を日本語訳すると「企て」や「たくらみ」という意味。「何か作ること」そのすべてが、デザインと言えるんです。

つまり我々デザイナーがデザインする範囲はとても広いということ!場合によっては「表現しない」こともデザインです。

デザインが広義になった今「デザインはビジネスパーソン全員に必要な、顧客の求めるものを探求するプロセスである」と定義できます。デザインはデザイナーだけのものではないんです!

今まではビジネスマンの必要なスキルとして「簿記」「会計学」「マーケティング」などが挙げられましたが、今後デザインはそれと同じようなビジネスで必要なスキルになってきます。

顧客の求めるものを追求すること、そのプロセスがデザインと捉えましょう。

 

現在、世の中の価値観は多様化・複雑化しています。価値観はどんどんと変化するし、人によって全然違うのが当たり前。たとえば、自分の隣の席に座っている人に「お気に入りのYou Tuber」を聞いてみても、知らないことも多いですよね。でも知らないことも普通になってきている。

だからこそ表層的な好みではなく、消費者社会の本質的なニーズを理解することが大事なんです。一人ひとりのニーズを把握するのは、複雑だからこそ難しくなっています。そこで必要なのがプロセスによって理解することです。

 

 

ビジネスに必要なデザインとは?

村田氏

企業さんの中には、デザインの価値を理解していなかったり、デザインを誤解していたりすることが多くあります。「センスの話なんじゃないの?」とか「数字で測れないよね?」とか、よく言われます。

またデザインが、ビジネスや事業戦略とは関係がないと思っている企業も多いんです。個人的には「コスパがいいのに……」と思うんですけどね。

 

デザインをおざなりにしてしまうと、確実にユーザーが離れます。企業がユーザーに必要とされていないプロダクトを作ってしまう。特に技術が高い企業ほど「スペックが高い商品を作れば顧客がつく」と思いたいんです。

 

では一体なぜこんなことが起こるのでしょうか。それは「客観視ができなくなっていくから」。

人はどうしても、自分の体験ベースで判断をしたがるのですが、自分はいちユーザーでしかありません。それは客観視とは言えないんです。この「客観視する方法」がデザインの考え方です。

 

「Airbnb」の事例

みなさんは「Airbnb」をご存知でしょうか。

一般の人が自分の部屋が空いている時に宿泊させるサービスで、現在Booking.comについで世界2位の宿泊予約サービスと言われています。

貸す側はメリットとしては空いてる部屋を貸してお金がもらえるし、借りる側はホテルよりも安く借りられるメリットがあります。

今では世界的なサービスですが、ローンチ当初はまったく流行らなかった。ところがユーザーが求める本質的な価値に気がつき、舵を切った結果成功したんです!

 

当初「貸す側は利益が出る、借りる側は安く泊まれる」というメリットを打ち出しました。ところがユーザーは「あぶないのでは?」「安心安全性が脅かされるんじゃないか?」と感じてしまい、利用者は伸びなかった。

のちに調査をして「Airbnbで得たいのは旅行体験ではなく旅体験である」ことに気が付きます。

旅体験とは、旅先でのハプニング性や偶然の出会いのようなもの。これらの体験価値を得たいと思っている人が、Airbnbを使っていることがわかったんです。

旅行体験を提供する宿泊予約サービスなら、Booking.comや楽天がライバルとなります。ところが旅体験を提供するサービスなので、ライバルは宿泊予約サービスではなくディズニーランドやキャンプなどの体験価値が得られるものになるはずです。そうするとサイト設計などは変わってきますよね。

 

このように、ユーザーの本質性を理解しないと競合を見誤り、サービス設計もずれていってしまいます。だからこそ本質を理解することが大事なんです!

ここまでの話をまとめます。

ビジネスを成功させるためには、価値観が多様化・複雑化している中の変化に応じた、消費者・社会の本質的なニーズを理解することが必要不可欠です!

そのためクリエイターは、どれだけいいものを作ってもニーズがなければ意味がないと言えます。

 

 

本質的なニーズを理解するデザインとは?

ここまで、本質的なニーズを理解することの重要性をお話ししてきました。ではどのように理解すればいいのでしょうか。

 

本質的なニーズを理解し、その理解をもとにサービスやプロダクトを考えるプロセスのことを「UXデザイン」といいます。

「UXデザイン」は「ユーザーエクスペリエンス」。つまりユーザー体験のことです。すべては体験に基づいて考え、「気持ちよく使えた」「嬉しかった」「面白かった」といったような、人間の行動や感情に注目した概念を指します。

 

簡単にいえば、ユーザーがプロダクトとかサービスを利用して体験したすべて!これにはサービス(アプリ)を利用していない・触っていない時間も含みます。

たとえばメルカリ。メルカリのアプリで出品や買い物をしている時間以外にも、いらないものを見つけた時に「これいくらで売れるかな」と考えていれば、それもメルカリの体験といえますよね。

つまり、体験の範囲はめちゃくちゃ広いんです!感情に注目するので、ポジティブな感情だけではなくネガティブな感情も含まれます。

 

たとえば「○□ペイの後払いサービス、すごく便利だよ!」という言葉の裏には、どんな「良い体験」があるでしょうか。

  • Aさん:支払いタイミングを自分で選べる→お金を管理しやすく金銭的に余裕が出るから便利!
  • Bさん:来月旅行に行くから既に支出が多いが、旅に必要なものを購入したい→商品をすぐに手に入れられるから便利!
  • Cさん:過去に詐欺にあったから商品を見て確かめてから支払いたい→安心して買い物ができるから便利!

同じ「すごく便利だよ!」という発言だとしても、ユーザーによって使い方は違い、何に価値を見出しているかは異なります。

この例からも、一人ひとりが本質的に求めることを精密に理解してサービスを考える必要性がわかると思います。

 

ユーザー体験を考える時に使われるのが「ペルソナ」。ペルソナは、個人の主観的な体験を計画するために特定の個人を定義するものです。

よく「ペルソナを一人に絞ったら、個人に向けたサービスになってしまうのでは?」と言われるのですが……これは大きな勘違い!

ペルソナはたくさんの調査をし、パターンを総合して導き出した「最大公約数の1人」!利用状況が同じであれば、同じような行動や反応をする可能性が高い人物のことです。そのため自分がペルソナに似ている部分はあっても、自分だけがペルソナになることはほぼありません。

 

要は、ユーザーをパターン化して再現性のあるデータとして取り扱うんです。

ユーザーを本質的に理解をするためには、ユーザーの話をたくさん聞く「ユーザーインタビュー」を行います。

ただし、その言葉を鵜呑みにするのではなくニーズを深掘りするのが大事。なぜならユーザーは答えを知らないから。答えを作るのは技術者です。

これは有名な話ですが、フォード社がユーザーインタビューで「何が欲しいですか?」と聞いた際、ユーザーは「速い馬が欲しい」と答えました。これを鵜呑みにすると速い馬を育てて売ればいいという話ですが、そうではありません。本質で考えると欲しいのは馬ではなく「早く移動できる手段」。それなら車でいいはずですよね!解決手段を技術を持って作るのが技術者の仕事です。

 

たとえば「市役所の待ち時間が長い」という意見には、どんな本質が隠されていると思いますか?

おそらく意見の中には

  • 「スケジュールが事前にわかっていれば調整できたのに」
  • 「他の用事に時間を当てたい」
  • 「長いとわかっていれば他の日に来たのに」

このようなものがあると思います。その意見によって待ち時間を短くするシステムが必要なのか、スケジュールが事前にわかるシステムが必要なのか、事前予約システムが必要なのか、解決策が異なりますよね。

 

このように、本質的なニーズを理解し分析することから、ユーザーが満足する体験設計の検討が始まるんです。

 

 


顧客のニーズに応えるための思考プロセス

村田氏

本質的なニーズの理解のプロセスには、事実をもとに具体と抽象を行き来します。

ここからはスターバックスを例に挙げて考えてみましょう。まずは客観的な調査を行います。

ここで注意したいのは、すぐにアイデアにしないこと。もし「出勤前やランチ後にコーヒーを買いにくるお客さんが多い」という調査結果があったとしたら、つい「ランチ後の割引をしましょう」などのアイデアに落とし込みがち!

重要なのは「出勤前やランチ後にコーヒーを買いにくるお客さんが多い」という事実から「コーヒーを飲んで落ち着きたい」というニーズを捉えること。コーヒーの味や割引よりも「家と職場の間に落ち着ける空間がある」ことが本質的なニーズかもしれません。

本質がわかれば【蔦屋書店×スターバックス】のような「自分と向き合える空間」の提案につながりますよね。

 

 

ユーザーが求める「理想のサービス体験とは何か」を考えるワークショップ

ここからは、ユーザーの事実や特徴的な行動や思考に着目して、ユーザーにとって理想的なサービスを考えてみるワークショップを実施しました。

 

村田氏

お題は「スターバックスでの新しい理想体験を作ってください」。

こうやって課題を出されると、すぐに考え出したくなりますが……すぐ考え始めてはいけません!まずはユーザー調査を行いましょう!

今回はユーザー調査ができないので、配布したペルソナを元に考えてください。

考える手順は、このようにしてみましょう。

  1. ユーザーの事実、特徴的な行動パターンを抜き出す
  2. 事実、特徴的な行動パターンからわかるニーズ(口語で)
  3. ニーズからわかるサービスに本質的に求めている価値(〜する価値)
  4. 本質的に求めている価値を実現する理想のサービス、アイデア

 

この手順を元に、考える時間を設けてそれぞれが新しい体験を考えました!

 

回答の時間では参加者からこのような意見が挙がりました。

  1. インスタに投稿している/コンビニよりもスタバのほうがいいという事実
  2. おしゃれなもの、SNSにアップできるものがほしい
  3. 商品自体にステータスがあることが大事なのでは?
  4. 何回か購入すると使えるカップで提供し特別感を出すとSNSでアップしやすい!

 

  1. オフィスと駅の間にあるから利用している
  2. 寄り道スポット(セーブポイント)として利用したい
  3. 店員さんと話すことで仕事とプライベートの切り替えができるから利用しているのでは?

このような本質的価値やアイデアが出てきました!

 

村田氏

スターバックスはコーヒーの提供だけではなく、場所の提供をしていたり、お酒の提供・パンの提供を行っている店舗もあります。店員さんとのコミュニケーションも体験設計ともいえますよね。つまりは飲み物に対するコミュニケーションを提供しているんです。

このワークショップで、本質を理解するデザインプロセスが少し理解できたのではないでしょうか。

 

 


今日のまとめ

村田氏

ここからは今日お話しした内容をまとめます。

  • デザインとは、ユーザーや顧客が求める価値を理解し、ビジネス戦略に活用し成果をもたらす思考プロセスのこと
  • 一人ひとりが、生きている以上かならず何か体験をしている。だからこそ自分自身を分析するということは、実はすごく大事(身につけているものやスマホなど、なぜ選んだのか?を深掘りしていく・疑っていく)
  • 流行っているものはどのような本質的ニーズをついたから流行っているのかという分析する習慣をつけると◎

 

自分一人でニーズを考えているよりかは、ユーザーに聞くのが一番!

ビジネスゴールとユーザーニーズに一貫性を持たせながら、理想のサービスを提供するための体験を考えるプロセスが「ビジネスに必要なデザイン」です。

 

これは、Webデザイン・Webマーケティングにおいても重要な考え方。

たとえば離脱率の高いページがあったとしたら、そのページだけ改善しがちですよね。でも実際の離脱理由は「前のページのデザインが悪く、間違えて入ってきてしまったから」かもしれません。そうなると直すべき場所が変わりますよね。

 

このように、あらゆる仕事において「ユーザーを理解する」ことは、とても大事です。

最後にはおすすめの書籍の紹介もいただきました!

 

 


□まとめ

「デザイン」と聞くと、デザイナーがやるものでセンスが必要で……という印象が強かったかもしれません。

ですがこの講義によって、多様化しているニーズを理解しユーザーの体験価値(UX)をプロセスに基づいて考えていくことがデザインなのだと実感できました。

デザインはデザイナーだけのものではなく、さまざまな仕事において必要な思考プロセス!より良いユーザー体験を提供できるように考えることが、デザイナー以外も重要だと深く理解できる90分間でした。

 

E CROSS PARKでは、今後もさまざまなテーマのワークショップを開催予定です。

ぜひみなさまのご参加をお待ちしております!

次回のレポートもお楽しみに!

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