E note
【E CROSS TALK REPORTS vol.07】
社長が聞いてほしい、たった一つの質問とは?
〜「嫌われたくない」と思うほどその質問は届かない〜
こんにちは!
今回は8月1日に開催した『社長が聞いてほしい、たった一つの質問とは?〜「嫌われたくない」と思うほどその質問は届かない〜』の内容を抜粋してお届けします。
講師は小樽商科大学大学院ビジネススクールの出身かつ、現役でさまざまな会社のコンサルを行っている田邊 慎太郎氏、三上 淳氏、影山 みゆき氏、五十嵐 誠氏の4名。
全員が経営者として活躍しており、4名の指導を受けながら「社長はどんな質問をして欲しいのか?」のワークショップを行いました。
社長に呼ばれた時の準備や考え方のメソッドについて学ぶ90分のレポートです。
ぜひ最後までご覧ください!
講師プロフィール
田邊 慎太郎(Shintaro Tanabe)
【主な経歴】
1974年生まれ。
北海道工業大学 土木工学科
小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻修了(MBA)
札幌のシンクタンクにて研究員 テーマ:経済効果(論文多数)
2005年 MARVEL SUPPLY 設立(購買データ・経済効果分析などデータ分析や予測モデルの構築、AIによる画像・動画分析)
2018年 HubSpot、Stripe、Asanaなど米国Saas企業のパートナー
2022年 株式会社100に株式売却し子会社化
【主な実績】
札幌のシンクタンクにて公共事業の政策立案、評価などの実務に携わりながら、除雪事業の経済効果算出などの経済効果に関する論文を執筆。
寒地技術賞や土木学会北海道支部論文奨励賞受賞。
データ分析に将来性を感じ、31歳の時に独立。
データ分析やコンサルティングを基盤として学習塾などを事業を拡大。
2018年からデータ分析の主軸をAIに移行しつつ、マーケティングやセールス、CRMの導入支援、CRMのデータ活用に支援の幅を拡大。
現在、株式会社100のシニアコンサルタントとして、クライアントや若手コンサルタントの育成に従事。
三上 淳(Jun Mikami)
【主な経歴】
1974年生まれ。北海道札幌市出身
小樽商科大学 企業法律学科卒業
小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻修了 首席修了(MBA)
米国イリノイ州ノースウェスタン大学集中講義「統合マーケティング」修了
【主な実績】
総合商社のエネルギー部門事業会社に入社後、ゲームメーカーに転進。
ライツビジネスとプロモーション担当、東京ゲームショウ、NINJA GAIDENのアニメ映画化等に従事。
業界No.1の人材育成コンサルティングファームに参画。
組織活性化と人材育成に関するコンサルティングとトレーニング設計に従事。
その後独立し北海道での人材育成・営業のコンサルティング会社「かもめソリューションズ」を設立。
本州大手企業での経験とノウハウを活かし、地元北海道の人材・組織の成長を支援する傍ら、神戸大学v.school客員准教授として、
文部科学省直轄プロジェクトに参画、全国の学生に「自然災害から社会を守るソーシャルアントレプレナー育成プログラム」を提供。
【主な研修・講演・コンサルティング実績】
富士通株式会社、リンナイ株式会社、北海道ガス株式会社、
株式会社ジョンソンホームズ、北海道エア・ウォーター株式会社、株式会社つうけん、SCSK北海道株式会社、官公庁 ほか多数
五十嵐 誠(Makoto Igarashi)
【主な経歴】
1972年生まれ。北海道札幌市出身
小樽商科大学 商学部経済学科卒業
小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻修了(MBA)
【主な実績】
1996年NTT東日本(当時NTT)に入社後、20年間にかけて、営業、様々な顧客層の販売企画、
サービス開発、及び経営企画から、コールセンターマネジメントまで多岐に渡る業務に従事。
2016年エコモット株式会社へ取締役として転職し、事業拡大、札証アンビシャス、東証マザーズの2度の上場に貢献。
2021年1月に緑丘総合研究所として独立。IT企業での多岐に渡る経験に基づき、主にIT企業への経営、DXに関する業務支援や、
札幌市内私立大学にて非常勤講師を行う。
□社長の心理と課題解決
田邊氏
僕も経営者としていろいろな人と会うなか、会社に他社の営業がやってきて、結局自分たちのことだけ話して、僕たちのことを何も聞かずに帰っていく……なんて経験を多くしています。
でも僕自身も独立してすぐの頃、せっかく大きな会社の社長さんに会う機会があったのに何を話していいかわからず「すみません、仕事ください」とお願いする……という経験がありました。
そこで「こういうことって、いつまでも永遠に繰り返されるのだろうか……」「どうしたらこの状況から脱することができるんだろう」と考えたんです。
これが今回のテーマ「社長が聞いてほしい質問」を考えるきっかけ。
どうすればいいのかを理屈(フレームワーク)に落とし込んで、実際に使えるようにしていきましょう。
取引先や見込み客の社長に呼ばれたらどうする?
田邊氏
社長に呼ばれると、いろいろなことを考えますよね。
「何を話そう」「怒られたらどうしよう」「仕事が欲しい」「できれば仲良くなりたい」
社長からあなたが呼ばれた理由は、無いようで有るんです。
大前提として社長や上司から「ちょっと来てくれる?」と呼ばれた場合は、社長は何かを求めているはずです。
決して怒りたいから呼んだわけではなく、信頼できる人ならば仕事をしてほしい。最初から好きになるために呼ぶことはないかもしれないけれど、嫌いになるつもりはないはずなんです。それに、せっかく数十分や1時間の時間を設ける以上は「この人なら何か解決してくれるんじゃないか?」と思って話をすると思います。
もしも社長や上司に呼ばれたら、あまり不安がらず「この人は何かに困っているんだろうな」と思いながら話をするのが大事です。
社長も正しく問題を認識できていない!?
田邊氏
では社長が抱いている問題を、どうやって解決するのか。ここでは結構古くからある「問題解決法」というフレームを紹介します。
問題解決法という考え方では「Aという事象とBという事象に差が生まれる」ことを「問題が発生する」と考えます。これを会社経営で考えると、現状と目標の間に差があり、その問題を解決することで目標達成につながると考えられますよね。
では、この「問題」を、お客様は正しく認識できているのでしょうか。
答えは No!
実は社長自身も、問題や目標、将来どうなりたいのかをしっかり定義できていないことが多いんです。
そういうお客様に対して「現状はこうですよ」「ここをちゃんと解決しないといけないですよね」と伝えなくては仕事が進みませんよね。
そのために必要なのが「質問」です。そして「質問」をするために必要なのが「仮説」を立てること!
「こういうことに困っているだろう」→「だからこういう質問をしたら答えてくれるだろう」このような仮説を立てることで、初めて具体的な質問が生まれます。
ここからは実際に手を動かすワークを行います。
ワークではみなさんの経験をもとに答える具体的な事例と、フレームワークに基づいた抽象的な事例の2つを繰り返して行います。この2つを繰り返すことで、仮説を立てる応用力がつくので試してみましょう!
□ワーク1:「実際にお客さまへどんな質問をしましたか?」
五十嵐氏
まずは具体的な事例を考える個人ワークを行い、グループ内で発表してもらいます。
テーマは、「普段どんなことを聞いているのか」「逆に自分が聞かれて印象に残ったこと」を個人ワークで書き出してください。
どれだけ準備をしてきたか?
ではここからはワーク1の講評をもとにお話ししていきます。
経営者は、常に事業の継続や成長について考えています。
そんな経営者から呼ばれた理由はいろいろあるとは思うんですが、課題の設定や課題解決に向けた情報収集のためかもしれません。経営者というのは、常に情報収集しているケースが多いんです。
情報収集をしている人に呼ばれる以上「相手はこんなことを考えてるんじゃないだろうか」と考え、準備をするのが大事なんじゃないかと思います。
「システムを入れたい」というお客さんのところに行ったとします。でも、ただシステムを入れたいのではなく、何か解決したい問題があるからシステムが必要だと考えて呼んだのかもしれません。それなら単にシステムの提案をするよりも、問題を解決できる方法を提案した方がいいですよね。
こういった問題は普段からたくさんあることですし、事前準備によって何が必要なのかを捉えることができます。
ではみなさんは、打ち合わせ前にどんな準備をすればいいでしょうか? 準備として使える「3C分析」を使ってみましょう!
分析手法の一つ:3C分析
五十嵐氏
「3C分析」とは、市場環境の情報収集を行ったあとに分析を行うフレームワークのひとつです。
市場環境を構成する3つ要素「Customer(市場)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」それぞれの状況を分析することで、自分たちの強み・弱点、競合他社の状況、顧客のニーズなどが理解できるというもの。
まずは自分たちの会社の強いところ・良いところ・こういう特徴がある、競合の強いところ良いところ・特徴、どんなお客様が来ているのかなどを洗い出します。これらを見た上で、顧客のニーズや要求を理解し、戦略を構築していくというフレームワークです。
たとえばスターバックスの場合を考えてみましょう。
- Customer(お客様):喫茶店業界はおよそ1兆〜1.2兆円で推移し、2020年はコロナ禍で減少/主な顧客は「流行に敏感な20~30代キラキラ女子」、「自分磨きも趣味も満喫、デキるビジネスマン」
- Company(自社):国内約1,700店舗(2022年3月末時点)、売上高1位。価格帯は安価で、年配層の利用者は少ない/商品のバリエーションが豊富で、季節性イベントにも対応
- Competitor(競合):ドトールコーヒー:国内約1,300店舗(2022年5月末時点)、売上高2位。価格帯は安価で、老若男女問わず利用/コメダ珈琲:約950店舗(2022年5月末時点)、売上高3位。価格帯はやや高く、ファミリー
洗い出すとこのようになります。これをただ眺めて分析をするだけではなく、成長のためにどんな戦略に落とし込めるかを考えましょう。
たとえば「年配層の利用者は少ない→高年齢層を取り入れたい」という問題に対しては、「商品バリエーションが豊富」という強みを活かして、高年齢者向けの和スイーツの開発はどうだろう?と考えられますよね。
また「既存の顧客層のシェアを拡大したい」という課題に対しては、お店にビジネスマン向けの書籍コーナーを展開するとどうだろう?という戦略を取れます。
影山氏
3C分析をする上では、ネットの情報だけで考えがちです。でも実は主観も大事。自分がお客さんとして利用した時に、どう感じたのかを書き出してみるのもいいですよ。
3Cの枠にはめすぎず、自分で体験したり仲間に聞いたりするのも大事です。
「3C分析」は、分析をするのが最終目的ではありません。あくまで仮説や戦略を考えるためのフレームワークです。自分なりのロジカルな考えを持つためのワークなので、唯一の答えなどはなく、想像の部分があってもOKですよ!
本来3C分析は「自社」の課題解決のためのフレームワークです。ただ今回の場合は、お客様の課題分析が必要なので「W3C分析」でクライアントの課題を考えてみましょう。
□ワーク2:「ケース:TriMok社を訪問する」
影山氏
ここでは架空の会社「TriMok社を訪問する」と仮定して、W3C分析を活用したワークを行ってみましょう。
まずは設定ですが、このように考えてみてください。
- あなたは札幌を拠点とする全国でも有数のIT企業に勤める35歳の営業職。期待のエース
- 得意先へ行った際に営業部長から「TriMok社という北海道内の観光業者とタッグを組んで、インバウンド事業に本腰を入れていく」との話を聞いた
- TriMok社はDX化が全くできていなくて、今後の取引に支障が出そうなので、会って話を聞いてもらいたい
TriMok社は架空の会社ですが、このような会社だと考えてみてください。
- 所在地:北海道上川郡東川町
- 設立年:2004年10月
- 社員数:13名
- 事業内容:移住者支援、少人数グループ向けパッケージツアーの企画・運営、町内のキャンプ場運営
- ホームページ:なし(町のHPとじゃらんや楽天トラベルには情報掲載、道の駅にパンフレット設置)
ではこれらの架空の設定をもとに、2つのことを課題に設定します。
1: TriMok社は、なぜDX化しようと考えたのでしょうか?
W3C分析の分析から、TriMok社がDX化する理由について仮説を立ててみましょう。
ここで重要なのは、あまり難しく考えずに、思いついたことをどんどん書き込んでいくこと。妄想でOKです!東川町の環境やインバウンド客・キャンプ客など、さまざまな目線から想像を膨らませて取り組みましょう!もし情報が不足している場合は、一般的な情報を書き込んでも構いません。
3C分析により「なぜDX化するのか」の自分なりの答えを導きだしていきましょう。
2:ミーティング時にTriMok社長への質問は何ですか?
3C分析により導き出した「なぜDX化するのか」の仮説を踏まえて、TriMok社の社長にどのような質問をすれば良いか考えてみましょう。
ここからは個人ワーク15分、グループ内共有10分の時間を設けて、実際に分析と仮説を立てました。
事前準備をすると打ち合わせの内容が変わる!
ワーク後の発表では、代表者が発表を行いました。
- 家族経営で地元密着型だから、なかなか発信に手が回らないからDX化が必要なんじゃないか?
- お金に余裕があるお客さんが中心だけど、より女性やインバウンド向けに発信をしていきたいのでは?
- 情報発信がされていないから道内客が多いだろう
- 少ない社員数かつ創業当時から勤めている人で年齢も高いから、なかなか発信ができず知名度が低いのでは?
- 自社で発信などをするにも、顧客データがまとまっていない状況だから、そのデータを活用するためにDX化を考えているのでは?
- 外国人観光客に安価・安全に旅行をしてもらうためにキャンプ場を活用しているのでは?
- 今までは個人的に繋がりのある代理店とだけ付き合ってきたけど、新規の来客に繋げるためにDX化が必要だと感じたのでは?
などのさまざまな意見が飛び出しました。
五十嵐氏
みなさんありがとうございます!みなさん最初は「DXをやりたいから来てほしいらしい」と聞いて「逆に相手の話を聞いて、やりたいことに対応すればいいのかな?」と思いませんでしたか?
でもワークをやってみると「TriMok社は、こんなことを考えてこういう事業があって、だからDXをやりたいのかな」という考えが生まれますよね。この考えが合っているか間違えているかは別として、しっかり考えを持った上で社長に会うと、話せる内容が変わってくると思いませんか?
だからこそ、このようなフレームワークを利用して「事前準備」をするのが大事なんです。
□お客様を理解するフレームワークと心得
三上氏
社長から呼ばれると自分にできることに関して質問したり、「何がしたいですか?」と聞いてしまったりしがちです。でも今回のように自分で10分・仲間と話す時間20分、合計で30分くらいの時間をとって少し準備をするだけで、グッと踏み込んだ質問ができるんです。
社長としても具体的な質問に対しては「まさにそうなんだよね」「ちょっと違うけど、そこまでうちの会社のことを考えてくれたんだね」と答えが変わってきます。経営者としては、商品が欲しいのではなく「自分が困っていることに共感してほしい」んです。もし一緒に考えてくれて共感してくれる人がいるなら、その人と仕事がしたいと思っています。
フレームワークなどを使ってちょっと考えるだけで、「ヒアリング」が「ソリューション」になるんです!
三上氏
お客様にも当然お客様がいて、市場環境だけではなく、さまざまな外部環境の中でしのぎを削っています。
たとえば「人手が足りない」といっているお客様に対して、自分たちの強みだからと「システムを売ります」と言っても響かないですよね。常に「お客様が何に困っているのか」を考えるのが大事です。
私たちも、お客様のビジネスも、社会や政治などの外部環境に大きく影響を受けています。当然ながら、社会の変化によってニーズも変化します。
商品やサービスなどを”手段”として使い、価値を提供しているのが企業。お客様がその価値に対して満足すると、対価として報酬が発生するというシステムが今の社会です。
システムの下には、システムが存在するための土台(=外部環境)が存在します。
この「外部環境」は、たとえば最近だと新型コロナウィルスの蔓延や、地震をはじめとする災害、法令の改変も一つといえます。また凄惨な事件などのネガティブな要素や、新しい技術の登場といったポジティブな要素も環境の変化に挙げられます。
外部環境のちょっとした変化は、システムの屋台骨を揺らがす可能性も秘めています。そんな外部環境と現状との隙間に仕事(ニーズ)が眠っているんです!
社長に呼ばれたタイミングでは、必ずなにか変化が起きています。私たちが呼ばれる時も、必ず何か起きている。これをいかにキャッチできるかが、鋭い質問が生まれるかどうかにつながっています。
社長が聞いて欲しいたった一つの質問は、本質的な『問題』 !
三上氏
社長に質問をするときは、ワークでやったように「こうかも!」という想像から仮説をたて、それをぶつけてみるのが大事です。「私はこう思ったんですが、違いますか?」と、自分の考えから質問を投げかけるといいですよ。
- 最近お客様のお客様について、どのような変化を感じていますか?
- 最近、お客様のライバルについて、どのような変化を感じていますか?
- これらを踏まえて、課題は何だと思いますか?
このような質問を、自分の考えをもとに質問してみましょう。もちろんこのままではダメですよ(笑)。
仮説が間違っていても大丈夫!「そこまで考えてくれてありがとう、でもうちはこうなんだよ」と、より具体的な話ができる答えをもらえるはずです。これらができると、立派なコンサルティングセールスです!
□まとめ
普段は何気なく参加しがちな打ち合わせの場。具体的に鋭い質問をするとなると、かなりの準備が必要だと思っていませんでしたか?
実はたった30分、情報を洗い出し→分析→仮説立てをするだけでも、投げかける質問や打ち合わせの解像度が上がるのだと感じました。
経営者と直接話をしない立場であっても、クライアントや担当者、上司と話をするときに役立ちそうですよね。
E CROSS PARKでは、今後もさまざまなテーマのワークショップを開催予定です。ぜひみなさまのご参加をお待ちしております!次回のレポートもお楽しみに!