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WORKSHOP

【E CROSS TALK REPORTS vol.10】
「プロフェッショナルWebプログラミング Vue.js」著者が語るエンジニアが身につけたいコミュニケーションスキルとは?

こんにちは!
今回は9月6日のワークショップ「「プロフェッショナルWebプログラミング Vue.js」著者が語るエンジニアが身につけたいコミュニケーションスキルとは?」の内容を抜粋してお届けします。

エンジニアであっても仕事をする上で欠かせないのが「コミュニケーション」。
「重要なのは技術力じゃないの!?」と思う一方、コミュニケーションで苦労されている方も多いのではないでしょうか。近年はチャットツールでのコミュニケーションも多く、相手の思惑がわかりにくかったり、こちらの意図したことがうまく伝わらなかったりする場面も多いですよね。

今回は「プロフェッショナルWebプログラミング Vue.js」の著者であり株式会社博報堂プロダクツデザインスタジオのマネージャー・フロントエンドエンジニアである山田 典明氏にご登壇いただきました。ベトナムで2年勤務したことや自身の経験をもとに「エンジニアが身につけたいコミュニケーションスキル」についてお話しいただいたワークショップ90分のレポートです。

講師プロフィール

山田 典明

山田 典明(Noriaki Yamada)

マネージャー/フロントエンドエンジニア

株式会社博報堂プロダクツデザインスタジオ

■経歴
Flash生まれ、jQuery育ちの老獪フロントエンドエンジニア。
Flashの衰退とともにHTML/CSS/JSを戦場とする。
流れに身を委ねていた結果、ベトナム・ホーチミンで2年を過ごす。
後に現在のフロントエンドの主流とも言える宣言的UIにVueを通じて出会う。
更に身を委ねて札幌に帰ってくる。
現在はフロントエンドのコーディングのみならず、マネージメントにも注力している。


今回のテーマのきっかけ

今回のワークショップのテーマは「エンジニアのコミュニケーションスキル」にさせていただきました。なぜこのようなテーマでお話しすることにしたかというと、やはりコロナ禍の影響が大きいんです。

コロナによって自宅勤務になった会社・チームは多く、初めてチャットツールを使う人も増加しました。エンジニアは以前から使っていた人も多いですが、さまざまな人が利用するようになって「コミュニケーションがうまくいかない」と感じる方も多いのではないでしょうか。

その際に、自分自身の「ベトナム赴任で得た経験・感じたこと」が活かせたと感じているんです。

 

そもそも僕自身は、コミュニケーションが得意じゃないと思っています。それでもさまざまなポイントを意識した結果、スムーズに進んだ部分がありました。

ただし、コミュニケーションに正解はないし、これからお話しすることがどの現場にも当てはまるとは言えません。人間だから間違いもあります!そのため今回のワークショップを参考にして、何か自分の仕事や生活に活かして欲しいなと思っています。

 


コミュニケーションの手段について

コロナ禍をきっかけに、自宅での勤務に移行した会社やチームは多いはずです。そのため職種関係なく、コミュニケーションがチャットツールに変化していきました。これに伴って営業の方をはじめ、それまでチャットツールを使っていなかった⽅々も利⽤するようになりました。

便利な反面、今まで使っていた人と初めて使う人との間で、ギャップが生まれてしまうんです。

なんでもかんでもチャットでのコミュニケーションにするのは、とても難しいと思います。特に、考えていることのテキスト化は慣れがない方にとってはハードルの高いもの。電話やビデオ通話の方が一瞬で要件が済むというケースは多いですよね。いくらチャットツールが中心であっても、コミュニケーション手段を「チャット」だけに限定しない方がいいと考えています。

そこで重要なのが、まずコミュニケーションしやすい関係を構築すること。

コミュニケーションの難易度は信頼関係によって変わるので、まずは対面や電話で話をし、関係性ができてからチャットに誘導するのをおすすめします。

 

チャットでのコミュニケーションのメリット・デメリット

それではチャットでの円滑なコミュニケーションを考える前に、まずはチャットのいい点と悪い点を考えてみます。

いい点には、以下のようなものがあります。

  • 言った言わない問題が軽減
  • 「あの時何言ってたっけ?」の軽減
  • コミュニケーションをとる人同士が同じ時間を共有しなくてもいい

これらはチャットツールの「テキストが残る」「時間のある時に自分のタイミングで見られる」という利点や、ビデオ通話の録画や倍速・一時停止機能があってこそのメリットですよね。

 

悪い点としては、以下のようなものがあります。

  • リアルタイムの状況の把握がしにくい
  • ちょっとしたテキストから受ける印象が変わる
  • うまくテキスト化できず時間がかかったり意図が伝わらなかったりする

チャットツールは、自分から発信をしないと表面化しません。そのため能動的な発信がないと、リアルタイムの状況が見えにくいという側面があります。特に新人さんの場合は、どのチャンネルで質問していいのか、どこに状況の連絡をしたらいいのか悩んでしまい、その間に状況が悪化してしまうこともあるんです。

またテキストの書き方の微妙な違いでも、印象が変わってしまいます。

  • 「わかりました」
  • 「わかりました!」

このように「!」の有無だけでも、前者は冷たい印象に、後者は元気な印象に見えませんか?自分では意図しない部分で、嫌な印象を抱かれるのは避けたいですよね。

これらに加えて、冒頭でお話ししたように「テキスト化が苦手で、考えをうまく言葉に落とし込めない」というケースも考えられます。

 

では、これらの問題にどう対処したらいいでしょうか?ここからはベトナムで学んだことをもとに紹介していきます。

 


ベトナム時代のコミュニケーション

僕がベトナムへ赴任したのは2013年。ベトナムに支社ができることに伴い、現地での指導スタッフとして2年間赴任することになりました。そこで大変だったのが、現地のエンジニアとのコミュニケーションです。

僕が使うのはジャパニーズイングリッシュ、現地のスタッフはベトナミーズイングリッシュなので、会話が交わらないという壁にぶつかりました。赴任当時ベトナム語はほぼできなかった上に、ベトナム語はイントネーションや発声によって同じ音でも別の意味になることが多いため、意思疎通が難しかったんです。

さらに想定外だったのが、専門用語の使用頻度が高いこと。通訳の方もいたのですが、その方はWeb関連の用語がわからなかったので、伝えたいことが伝わらない事態に……。

困った \(^o^)/

そこで頑張ったのが「チャットを駆使する」ことでした。

お互いに英語を話せなくても、英語を「読む」ことはできます。またGoogle翻訳などのツールを使えば、なんとなく相手の意図することはわかるし伝えられるんですよね。さらに「ソースコード」は世界共通の言語ということも大きかった。

互いに英語ができない分、指示も明確になるというメリットがありました。

たとえば日本語の場合「◯◯は□□□だと思うのですが…」という発言が、指⽰なのか感想なのか、質問なのか、よくわからないことがありませんか?英語にしようとすると遠回しな表現・難解な表現が難しいため、必然的に指示が明確になるんです。翻訳ツールを使う場合でも、明確にしないと誤った表現になってしまいます。

 

ここまではチャットならではの解決方法を紹介しましたが、チャットだけでは限界がある場合も発生します。それが「急いでいる場合」「ミスした場合」です。

これらは早急に対処をしなければいけないため、わざわざ言いたいことをテキスト化して翻訳して送る……という時間をかけられません。直接のコミュニケーションが大事になります。

結局は表情や身振り・手振り、声量などで相手に伝えることも重要です!

テキストはあくまでコミュニケーション手段の一つでしかありません。少しでも直接話したり、自分の表情などで伝えるだけでも、伝わり方は違ってきます。

今の会社の親会社でもベトナムの方が勤めていてお話しする機会があったのですが、ベトナム語で少し話しただけでとても喜んでくれました。少し話せるだけでも武器になるんです。

母国語や文化は違えど、同じ人間!表情や声量などは、万国共通で使えるコミュニケーションの大きな手段の一つとしてとらえておきましょう!

 

帰国〜現在まで意識していること

ベトナムで2年赴任した後、東京に戻ってきました。帰国後もコミュニケーションで意識していたことがあります。それがこの6つです。

 

指示を明確にする・させる

特に指示を出す側は、役割と作業内容を明記しましょう。「誰が」「いつまでに」「何をするのか」は必ず記載するようにしています。ありがちなのが、誰かがやってくれるだろうという「だろう運転」。これは絶対にNGです!やって欲しいことは明記しましょう。

実は作業指示は意外と難しいもの。

たとえば「ベトナムの首都は?」と聞いて「ハノイ」と答えて欲しいのに、「過去のベトナムの首都」や「南ベトナムの首都」を思い浮かべて「サイゴン」「ホーチミン」という答えになることもあります。これは質問に時間の指示が足りないため、答えが変わってきてしまうんです。もしハノイと答えて欲しい場合は「現在のベトナムの首都は?」と聞くといいんです。

同じような時間や役割の書き漏れは起きがち。注意をしていても指示漏れは起こるものです。曖昧な部分を残さず、明確にすることを意識しておきましょう!

 

テキストに残す

ビデオ通話って、意外と疲れませんか?終わったことで安心して、内容を忘れてしまうこともありますよね。そこで、ビデオ通話が終わったタイミングでテキストを残しておきましょう。

  • 何が決まったのか
  • 何が決まっていないのか
  • 誰が何をやるのか

これらを簡単な議事録としてまとめておくといいですよ。これをクライアントに共有すると、めちゃめちゃ喜ばれたり信用されたりするので、ぜひ試してみてください。

同様に、やることリストを関係者全体で共有するのも有効です。自分の健忘録だけではなく、チーム全体で認識できます。

 

テキストの表現をカジュアルに

エンジニアは、割と理不尽な注文や矛盾したことを言われがちな立場ですよね……。それを否定から返してしまうと、険悪さが際立ってしまいます。

そこでおすすめしたいのが、まずは「そうですね」と肯定から入るテクニック!

とりあえず「そうですね」と言ってから、「ただ、こうするとこうなっちゃいますよ」と自分の考えを伝えるようにする。これだけで、理不尽なことを言われても柔和できるんです。否定から入らず、肯定した上で考えを伝えるようにしましょう。

テキストのコミュニケーションは、テキストからしか感情が読み取れません。そのため冷たく見えてしまうケースが多いんです。⾃分から率先して絵⽂字を使ったり「!」 を使ったりしないといつまでも堅苦しいコミュニケーションになってしまうかも。ただし絵文字やカジュアルな表現は、時と場合や相手にもよるので注意してくださいね。

 

傍観者にならない

複数人のグループチャットで、傍観者にならないことも大事。メッセージ送信者は、送ったメッセージを⾒たのか知りたいケースがとても多いです。メッセージに気がついたらすぐに返信を心がけましょう!

もし質問に対してすぐに答えが出ない場合でも、まずは「確認します!」の一言を送るだけで信頼されやすくなります。

またメッセージに対してはメッセージで返すのも、結構大事です。絵文字のリアクションがついていても、それが「いいね」なのか「Yes」なのか「見ました」なのか判断に困りませんか?質問や許可・依頼に関しては特に、メッセージで返すようにしましょう。

これは自分がメンションに入っていない場合でも同じ。「誰かが返信するだろう」という考えはしないようにしてください。

 

コミュニケーション⼿段を限定させない

普段チャットを使っていると「チャットじゃなきゃダメ」という意識になりやすいですよね。ところが、人や場合によっては通話の方がいいこともあります。たとえばテキスト化が苦手な方や、移動中や出先にいるためチャットツールを開けないなどのケースは、エンジニアであっても起こり得ます。

そのため「コミュニケーションを何で取りますか?」という確認はあらかじめしておいた方がいいと思います。コミュニケーションツールを何にするかよりも、コミュニケーションを取りやすい関係性の方が大事です!

 

⽇頃から困ってることを汲み取れる機会を設ける

自宅やリモートで働いてると、日頃から困ってることを発信する機会がなかなかありません。会社などではよく「週に1回60分のミーティングを行う」というのを聞きますが、ミーティングの日までに聞きたいことや言いたいことは忘れてしまいがちです。加えてミーティングとミーティングの間が空いてしまうので、事態が手遅れになってしまうことも考えられます。

また「渾身の作品を作って提出したのに、めちゃくちゃ戻しが多い」なんてことが起きるとモチベーションが下がってしまいますよね……。確認をする方も、1週間分の確認事項をすべて確認して返答するのは大変です。

僕は週1回の60分のミーティングより、毎日10分話す機会を作ることをおすすめします。つまり困ったことをすぐに相談しやすい環境を作るんです。ちょこちょこ確認をしあうことで円滑にコミュニケーションが取れ、大きな事故や確認に時間がかかるような事態は防げます。

「困ったら言ってね」と自発性に任せるのではなく、気軽に話しやすい場・機会を作りましょう!

 

PCの向こうには人がいる

6つの方法を紹介してきましたが、今言った方法をすべてやるのは非現実的です。重要なのはバランス!

人がミスするのは当たり前です。自分ももちろんミスをします。コミュニケーションでも案件でも、ミスは必ず起きるもの。過剰に怒ったり「〇〇警察」のように小さな指摘をちくちくしていると、コミュニケーションを取ること自体を萎縮させてしまいます。

「技術的にはこれが正解なんだ!」という正論は、必ずしも最適解ではありません。仕事上、先方の都合や社内の事情などで、正論が正解になるわけではないですよね。どこを落とし所にするか、コミュニケーションを取りながら探っていくのも大事だと思います。

エンジニアにしてもデザイナーにしても、PCを前にしていると「PCの向こうに人がいる」ということを忘れがちです。

仕事は基本的に人間のためのもの。正解は場面や案件、関わる人によって変わってくるので、どこを最適な回答とするのかは、関わる人みんなでつけていく必要があると思います。

エンジニアも仕事を取ってくる営業側もそうなんですが、コミュニケーションスキルってすごく重要。コミュニケーションを突き詰めると「相手の気持ちになって、どのようにわかりやすく伝えるか」になっていきます。

仕事は1人でできるものではなく、誰かがいて、その先にまたお客さんがいます。だからこそ自分たち以外の状況も踏まえて、協力の範囲を広げることを考えましょう。

 

ここまでいろいろ話をしてきましたが、コミュニケーションの正解は、やっぱり自分でも全然見つけられないんです。

たとえば今流行ってるフレームワークとかライブラリなども、今は流行っているけれど「それが本当に正解なのか」ということは常にアップデートして考えて採用していくのが大事ですよね。同じようにコミュニケーションも、どういうやり方ががいいのかを常に考えてアップデートしていくのが必要ではないでしょうか。

 

もし質問の聞き方がわからないという方はGitHub CopilotやGitHub Copilot Chat を駆使して、技術的にわからないことをAIに聞くのもありだと思っています。チャットでのコミュニケーションとは違い、AIに遠慮はいりません。気軽に聞けるので、まずはこちらで確認してみるのもおすすめです!

 


◻︎まとめ

コロナ禍以降、当たり前に使われるようになったチャットツール。普段から使い慣れている方は、つい「だろう運転」や端的なコミュニケーションになりがちではないでしょうか。

チャットは様々な人が集まる場であり、PCの向こうには人がいると意識するだけでも、普段のコミュニケーションが変わってきそうですよね。今日からすぐに使えるテクニックも多くあり、実用性の高い90分間でした!

 

E CROSS PARKでは、今後もさまざまなテーマのワークショップを開催予定です。ぜひみなさまのご参加をお待ちしております!

次回のレポートもお楽しみに!