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【E CROSS TALK REPORTS vol.18】プロデューサーを目指さない?!
〜グルーヴとヴァイブスを生む最強のコミュニケーション術〜
こんにちは!
今回は2月26日のワークショップ「【E CROSS TALK vol.18】プロデューサーを目指さない?! 〜グルーヴとヴァイブスを生む最強のコミュニケーション術〜」の内容を抜粋してお届けします。
みなさんは、デジタルクリエイティブ業界で「プロデューサー」という職種がどんな仕事をしているかご存知でしょうか?
「ディレクターとは違うの?」「実際にどんな役割を持っているのか?」など、知らないことも多い「プロデューサー」。
今回は札幌出身で、大手コンビニエンスストアWebサイト制作など数々の大型案件のディレクション・プロジェクトマネージメントに従事している株式会社エポックの小坂大輔さんを招き、プロデューサーについて紹介いただきました。
プロデューサーという職種はもちろん「デジタルクリエイティブ業界に興味がある!」というみなさんに役立つ90分のレポートです。
講師プロフィール
小坂 大輔(Daisuke Kosaka)
ビジネスプロデューサー
EPOCH Inc.1978年4月24日生まれ。
北海道札幌市出身。
通称:北の本物
サラリーマン〜スポーツライター(見習い)〜フリーターを経て、生きていくお金がなくなり何となくな気持ちで、老舗Webプロダクションに入社。
ウェブの「ウ」の字も知らぬまま、独学と社内勉強会で実装者として語れる位にレベルアップ。
とはいえ、日進月歩の技術進化についていけずに、実装者から足を洗い、
2012年8月よりSONICJAM TOKYOに参加。
大手コンビニエンスストアのWEBサイトを中心に、ディレクション・プロジェクトマネージメントに従事。
対人コミュニケーションを徹底的に磨く。
SJで出会った友人が立ち上げた株式会社EPOCHに2015年4月よりジョイン。
以降、プロデューサーとして立ち回り、実行力と実現力を持ち合わせ、メディアや領域を問わず統合的なプロデュースを行いつつ、ビジネスプロデューサーとして、クライアントのビジネス課題に寄り添う形で営業としても立ち回っている。
サウナとキャンプをこよなく愛する生粋の独身貴族として日々力強く生きつつ、心のどこかで独居老人になるのではないかとも恐れている。
プロデュースって何?
小坂さんに登壇いただき、まずは自己紹介をしていただきました。
みなさんは「プロデューサー」と聞くと「大変そう」と思われるかもしれません。ですが、やっていることを知ると、実はそんなに難しくないんです!
私がいるEPOCH Inc.の社訓は「Be Honest」。今回も正直ベースに、実体験をもとにお話ししていきます。
今日のゴールですが、
- 「プロデューサーという人間・職種」
- 「プロデューサーの立ち回り」
- 「クライアントとの向き合い方」
これらをゆるめに理解することを目標に進めていきましょう!
「プロデュースって何?」「プロデューサーって何者?」
まずは「プロデュース」や「プロデューサー」についてお話ししていきます。
プロデューサーと聞くと、小室哲哉氏や佐久間宣行氏のように、テレビや音楽関連の職種を思い浮かべるかもしれません。ではこれらのプロデューサーは、どのような仕事をしていると思いますか?
ズバリ、プロデューサーとは「営業であり、コネクタ」です!
たとえば映画制作の場合を考えてみましょう。大きい会社として「配給会社」「広告代理店」「制作会社」が映画制作に関わります。プロデューサーは、配給会社と広告代理店・広告代理店と制作会社、それぞれの間で活動する役回りです。
キャスティングやリサーチ、スポンサー探しや試写会設定などが主な仕事内容。つまりは「いい作品をつくり、たくさんの人に見てもらうために動き、クライアントの評価を上げたり関係強化に繋げたりする」のが仕事ですね。
ではWeb制作の場合のプロデューサーはどうでしょうか。
クライアントと制作会社の間に立つのは「ディレクター」が多いですよね。
ディレクターが行う仕事として、このようなものが挙げられます。
- 営業活動
- スタッフィング
- スケジュール・予算管理
- WF制作
- 内部制作進行管理
- クオリティ管理
- クライアントの窓口
- そのた細々とした雑務 など
正直、ディレクターの担う範囲が多すぎると思いませんか?これではやりたいという人が増えないですよね……。
そこでこれを、プロデューサーとディレクターで分業しています。
プロデューサーは
- 営業活動
- スタッフィング
- スケジュール・予算管理
- クライアントの窓口
これらの主に対外に関しての業務を担当しながら、予算管理なども行います。
それに対しディレクターは
- スタッフィング
- WF制作
- 内部制作進行管理
- クオリティ管理
をはじめとした、主に内部のことを担当すればいいんです。
実はこれ、TV番組の制作や映像制作などでは割と行われているんですよね。それなのにWeb業界ではすべてディレクターが担っていて「忙しい」「大変」というお話を聞きます。これだけのものを一人でやろうとすれば、そりゃ大変ですよね!
分業のメリット
では、分業にはほかにどんなメリットがあるでしょうか。3つの視点から考えてみます。
まずはクライアントにとっては、このようなメリットが挙げられます。
- コミュニケーションが楽:窓口がひとつなので話が速い!
- 専属のコンシェルジュがついているようなもの:自分のことを考えてアイデアをくれる存在(プロデューサー)がついている頼もしさ
- クオリティが向上:分業していることでクリエイティブの質が上がる
- 社内評価アップ:いいものが上がってくるので社内での評価が上がる!
一方、プロデューサーにはこんなメリットがあります。
- クライアントとのコミュニケーション強化:クライアントと密に話す機会が多い
- 社外パートナーの開拓:多くのクライアントと直でつながることで別の仕事にも役立つ!
- 同業他社との情報交換:同じような仕事に関わる人とも交流が増える
- 仕事以外の時間に余裕が生まれる:ディレクターと分業することで余裕を持てる!
さらにディレクターには、こんなメリットがあります。
- クリエイティブに専念できる:分業によって対外交渉はプロデューサーに任せられる
- クオリティアップに専念できる:内部の制作に注力できる
- ミスが減る:業務を分担できるので、1つの業務に使える時間が増える
- 仕事以外の時間に余裕が生まれる:プロデューサーと分業することで余裕を持てる!
プロデューサーが機能することが、クライアントの満足度アップの近道です!
営業ってどんな人?
さきほど、プロデューサーとは「営業でありコネクタ」という話をしましたが、みなさんが思いつく「営業」とはどんな人でしょうか?少し考えてみてください。
ワークタイムとして考えてみることに。
参加者
「会社のフロントマンのような人」
「商品やサービスを売る人」
「お客さんが困っている課題解決のために動く人」
みなさんが答えてくれた内容は、いずれも正解です!簡単にいえば“仕事をつくる人”のことです。
ではどうやってゼロベースから仕事をつくると思いますか?これも少し考えてみてください。
参加者
「知人から紹介してもらう」
まさにその通り。人と会ってなんぼ!!人と会うことに尽きます。紹介してもらったり、誰かと話したりするなかで仕事が生まれるなど、さまざまな生まれ方がありますよ。
ではどうやって人と会っているのか?ここで、私が担当した事例をひとつ紹介します。
事例:ダイソーのトータルリブランディング
以前「ダイソー」のロゴやコピーなどのトータルブランディングを行いました。
昔、地方に行くとロゴなどが統一されていなかったんですよね。ロゴや店舗デザインなどがバラバラだったり、デザイン自体も正直微妙……。それに対して「セリア」や「キャンドゥ」などの競合企業は、統一感のあるブランディングができていました。
そこで「なぜブランドデザインを整えないのかな?」という疑問が湧いたんです。
ダイソーとの直接の接点はなかったのですが、HPの問い合わせフォームから直接メールを送って聞いてみることにしました。
メールには「なぜこのデザインになったのか?」「あえてこのようなデザインにしているのか?」などの質問を書きました。ただ送るだけでは、ダイソーの創業者・矢野氏に読んでもらえません。
そのため、矢野氏がどんなバックグラウンドの人物なのかを調べてから送りました。矢野氏は商売愛のある人として知られていて、借金を背負ったり火災にあってすべてを失った経験があったり苦労人でもあります。また100円商品に対して誇りを持って商売をしている人でもありました。
このように下調べを含めてメールを送った結果、直接矢野氏とお会いすることになり、仕事にもつながりました。
実は人と会うきっかけづくりは簡単です。たった一通メールを送るだけでも仕事がつくれます。これならすぐにでもできそうだと思いませんか?
コネクタとは?
先ほどプロデューサーとは「営業でありコネクタ」という話をしました。ここまでは「営業」についてお伝えしてきたので、ここからは「コネクタ」についてお伝えしていきます。
「コネクタ」とは「つなぐ」「接続する」という意味があります。では一体何をつなぐのか。「ひと・もの・こと」をつなぐんです。
クライアントは、常にミッションや課題に追われています。これは言い換えれば「世の中はミッションや課題に溢れている」とも言えるんです。
この課題(=WHAT’S)を抱えている人にコネクトできれば、仕事があるのではないでしょうか。
私という人間を表現してみると「知見・ナレッジ/人脈/実行力/相談しやすい」というアセットをもとに、惜しみなく提供するということが言えます。これらのアセットを活用すれば、クライアントに対してコネクトが生まれ、次の仕事に繋がるんです。
ここでみなさんに質問です。
「恋人やパートナーと付き合うまで、どんなアクションをしたか?そしてなぜそのアクションを選択したか?」
これを考えてみましょう。
ワークタイム(余談として小坂さんのマッチングアプリトークも飛び出しました!笑)
参加者
「見た目を清潔にする→そのほうが女性が喜ぶから」
「自分の気持ちを伝える→伝えないとわからないから」
今答えていただいたとおり、何かしらのアクションを起こすに至るまでには、必ず理由があります。これが「戦略」!戦略はコネクトをより強化してくれる、重要なものなんです。
クライアントにいつ「WHAT’S」が起きるかはわかりません。だからこそ常に能動的にアクションを仕掛け、用がなくても定期的にコネクトするのがいいんです。コネクトのきっかけは、直接仕事に関係あるものでなくても構いません。たとえば「美味しいお店があるんです」でもいいし「相性の良さそうなクライアントがいるので紹介します」でもいい。
能動的に連絡をとり面白がってもらえれば、いつの間にか関係が深くなっていきます。会いたい人や仕事をしてみたい人には、定期的に連絡をとってみましょう!
現場よりも顧客を見るべし!
仕事をする上で絶対に欠かせないステップとして「提案」があります。みなさんも、デザイン提案や企画提案などをしたことがあるのではないでしょうか。 提案に参加するということは、仕事が欲しいから行うわけですよね。コンペの場合は、仕事にするためにも絶対に勝ちたいはずです。
一般的な提案は「オリエン→提案→決定」の過程がありますが、この間に提案する企画を考えたり、スケジュールや予算、デザインなどさまざまなことを考えたりしなくてはいけません。
ただ、この流れで進めてしまうとオリエンの解像度が必ずしも高いわけではありません。内容もファジーなことがほとんど……。この状態で提案に臨んでも、必ず勝てる提案になるかどうかはわかりませんよね。
こんなときにプロデューサーが何をするかというと、オリエンと提案の間に「ディスカッション」の機会をつくります!
ディスカッションは担当者と会い「自分たちの考えていることを提案」「相手の顔色・空気感をうかがう」などを、それとなく行います。ディスカッションの機会を設けることで、一般的な流れで進めるよりも多く、クライアントとコミュニケーションをとれるんです。
ぶっちゃけ手間ではあります(笑)。それでもなぜディスカッションをやるのか。
ここで意識しているのは「何をつくるかではなく、なぜつくるか」ということ!
クライアントとしては達成したい目的・ゴールがあるから提案を求めているはずですよね。たとえば「新商品を売り出したい」「売り上げを伸ばしたい」などの目的があると思います。
重要なのが、目的に対して寄り添ってあげること。寄り添う行為として行うのが「ディスカッション」なんです。ディスカッションを行うことで、クライアントのことを思っているとアピール。さらに精度の高いヒアリングが可能となり、コンペの勝率もアップします。
事例:ソフトバンク先端技術研究所
ここで、以前参加したコンペの事例を紹介します。
クライアントは「ソフトバンク先端技術研究所」。現社長である宮川氏の直轄となる技術開発チームです。ソフトバンク先端技術研究所が発足する際に行われたコンペに参加することになりました。
提案の内容は「ソフトバンク先端技術研究所のブランディングおよび1年間の運用」。決済者はチーム所長が担当することになっていました。
ではみなさんなら、どんな戦略のもとどんなフローで提案に臨みますか?考えてみてください。
ワークタイムとして、チームの発足背景や所長のプロフィールなどを聞き、提案内容を考えてみました。
ここで私とチームが行ったのは「ブランドの人格をつくった」こと!
「ソフトバンク先端技術研究所」は発足して間もない機関です。つまり赤ちゃんと一緒!まだどんな顔つきなのか・声なのか・性格なのかがわからない状態でした。
そこでまずはブランドの人格をつくるために、キーパーソンの方々と一緒に好きな人やもの、思想などを吸い上げるワークショップの場をつくりました。この機会によって「自分たちって、こういう人格だよね」という共通認識をつくったんです。
この間ほかのライバル社は、共通認識を知らない状態からブランディングを行わなければならないわけです。
私たちはワークショップ(ディスカッション)によって、他社が知らない情報のすり合わせができ、無事にコンペにも勝つことができました。
人格はアイデンティティともいえる重要な部分です。絶対的であり恒久的な存在にする必要があります。最終的にできた人格は「We are Activators」。
しかし当初は「Move things forward」に決まりそうだったんです。これは「ソフトバンク先端技術研究所」のみなさんの意識の高さや反骨心があることから、クリエイティブチームが考えた言葉です。
普段私はあまりクリエイティブに口を出す方ではないのですが、クライアント目線で立ち止まってみると「できたばかりの機関でMoveは荷が重くないか?」と感じました。
そこで一度立ち返り、深掘りしたのが孫氏の考え方。孫氏といえば、パワフルさやユーモアのある人物として知られていますよね。
孫氏が大事にしているのが「世に生を得るは、事を成すにあり」という坂本龍馬の言葉。孫氏の考え方の源流には、坂本龍馬がいるんです。そこで、いち情報としてクリエイティブチームに坂本龍馬のことを伝え、新たな視点を持つことにしました。
ソフトバンク先端技術研究所は孫氏が立ち上げた部署ではないのですが、ソフトバンクのDNAの中には孫氏の存在が必ずあります。「坂本龍馬の考え方」という視点を持つことで「ソフトバンクイズムがわかっているね」と伝わるクリエイティブに仕上げることができました。
今日のまとめ
プロデューサーとは「営業であり、コネクタ」ですが、すべての人に同じようなコミュニケーションをする必要はありません。クライアントや担当者の人格・属性によって対応を変えていくのが大事です。
クライアントと繰り返しコミュニケーションを取ることで、グルーヴ感&ヴァイブスが生まれていきます。ぜひぜひ実践してみてください!
私のプロデューサー3箇条は
- とにかく営業
- とにかくコネクト
- とにかくクライアント目線
これらを踏まえた上で、みなさんにもプロデューサーを目指してもらいたいと思っています。本日はありがとうございました!
□まとめ
クリエイティブにまつわる仕事をしていると、どうしても「つくること」に注力しがちですよね……ですが、仕事は基本的にクライアントの「WHAT’S」を解決するもの。
クライアントとコミュニケーションを積極的に取り、徹底的にクライアント目線に立って伴走しながら課題解決に繋げる「プロデューサー」の仕事は、どんな場面でも役立つのではないでしょうか。
具体的な事例やユニークなお話も飛び出した、あっという間の90分間でした!
E CROSS PARKでは、今後もさまざまなテーマのワークショップを開催予定です。
ぜひみなさまのご参加をお待ちしております!
次回のレポートもお楽しみに!